全国マヨネーズ・ドレッシング類協会並びに全国ドレッシング類公正取引協議会では、ドレッシング類製品についての普及啓発、ドレッシングのJAS規格策定への参画、ドレッシング類の製品づくりに欠かせない食用植物油脂や鶏卵などの原材料等の安定的な確保対策、容器包装のプラスチックの削減など、様々な取組を推進しています。
今般、令和6年11月には、このような取組の一環として、採卵鶏のアニマルウェルフェアについての協会の考え方と取組方針を取りまとめました。
採卵鶏のアニマルウェルフェアについての協会の考え方と取組方針
1.採卵鶏のアニマルウェルフェアをめぐる国内外の情勢
(1)「ア二マルウェルフェア」とは、国際獣疫事務局(WOAH)の勧告において、具体的には、①飢え、渇き及び栄養不良からの自由、②恐怖及び苦悩からの自由、③不快からの自由、④苦痛、傷害及び疾病からの自由、⑤正常な行動様式を発現する自由の5つの基本原則に沿って、動物の快適な飼養環境を総合的に確保していくことが求められています。
(2)国際獣疫事務局(WOAH)では、主要な畜種毎にアニマルウェルフェアに関する規約(OIEコード)が策定されており、世界各国では、その立地特性、地域的・文化的・歴史的な背景等の違いに応じて、様々な制度的・奨励的対策等を用いてアニマルウェルフェアの取組が進められています。
注)但し、採卵鶏は令和3年(2021年)5月の総会では各国意見の隔たりが大きく、OIEコードの採択に至っていませんが、日本政府はこの採択案を支持しています。
(3)日本では、農林水産省から「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について(平成29年・令和2年、畜産振興課長通知)」が示され、さらに、令和5年7月には、飼養実態を踏まえ、具体的な対応をまとめた畜種毎の飼養管理に関する技術的指針が発出されています。
現在、同指針の普及が進められており、今後は同指針に沿った取組状況の把握、その結果を踏まえ、「実施が推奨される事項」ごとに、目標達成年の設定を検討するなどの取組が進められていく予定です。
(4)また、採卵鶏についてはEU・米国等では、5つの自由のうち、正常な行動様式の発現の自由を重視した、ケージフリー(平飼い)の飼養を促す規制措置や、ケージフリー卵の調達をめざすグローバル企業の動きもみられ、日本においても、家庭用のケージフリー卵や、ケージフリー卵を使用した加工食品が一部出回るようになってきています。
2.日本における採卵鶏の飼養動向
(1)日本においては、戦前は農家の庭先での中小規模の平飼いの飼養が一般的でした。
戦後は、食生活の変化に伴う旺盛な鶏卵需要の高まりに対応して、衛生面や、野生動物の侵入防止、採卵鶏同士のつつきによるストレスやケガの防止等の観点で利点があるケージ飼いが、飼養羽数の拡大とともに普及してきました。
現在では9割以上の農業者で効率的なケージ飼いが採用されており、今日の国内の旺盛な鶏卵需要(年間生産量259.7万トン*1、国民1人当たり339個/年、世界第2位*2、いずれも令和4(2022)年度)を充足する国産鶏卵の安定供給を支えています。
※1:農林水産省統計部「畜産流通統計」
注)鶏卵の年間生産量は、2023年が高病原性鳥インフルエンザの大発生で鶏卵生産量が大きく減少した年であるため、2022年値を記載した。
※2:国際卵委員会(IEC)調べ
(2)一方で、消費者ニーズも多様化しており、ケージフリー飼養を行う生産者も増えつつあります。
3.採卵鶏のアニマルウェルフェアに関する当協会の考え方について
(1)国内の鶏卵生産量(259.7万トン)のうちの約2割が、鶏卵を原材料として使用する食品加工・製造用となっており、鶏卵が必須原材料であるマヨネーズや、ドレッシングを製造する当協会の会員事業者にとって、国内における養鶏産業の持続的発展と鶏卵の安定的な調達確保は、極めて重要な課題と考えています。
特に、国内養鶏産業の持続的な発展確保が図られる過程においては、アニマルウェルフェアの5つの基本原則に沿った飼養管理の取組が、日本固有の自然環境や狭い国土などの地理的な制約、生で卵を食べる食習慣等に対応される形で推進されていくことが重要であると考えています。
(2)また、国内の重要なたんぱく質供給源である鶏卵の安定供給や、度重なる高病原性鳥インフルエンザの発生や飼料等の高騰などに対処されている生産者の経営の持続性との両立が図られることも重要と考えています。
(3)さらに、5つの自由の基本原則に沿った取組がどのような形で行われるかについては、
※ 個々の鶏卵生産者の経営判断が尊重されること、
※ 5つの自由のうち、どれか一つのみに焦点があてられるのではなく、あくまで5つの自由の原則に沿って、より良い環境下での飼養となる取組が総合的に推進されることが重要と考えています。この点については、農林水産省の畜産局長通知「国際獣疫事務局の陸生動物衛生規約におけるアニマルウェルフェアの国際基準を踏まえた家畜の飼養管理の推進について(令和5年7月26日)」の中で、アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理とは、「特定の施設や設備を整備することのみで達成されるものではないことを関係者が十分認識し、その推進を図っていく必要がある。」と記載されており、この趣旨に賛同する考えです。
(4)今後、アニマルウェルフェアに配慮された鶏卵製品が、国内で普及・定着していくためには、アニマルウェルフェアに関する消費者等の正しい理解や関係するステークホルダーとの意思疎通や連携が図られることが重要と考えています。
4.当協会のこれまでの取組
当協会では、昨今の情勢を踏まえ、採卵鶏のアニマルウェルフェアは重要な課題であると考えて、令和3年以降、以下のような取組を推進してきています。
【令和3年】
- 採卵鶏のアニマルウェルフェアをめぐる内外の情勢・知見等の収集と会員間の情報共有(農林水産省、畜産技術団体、学識経験者の講演と意見交換)
【令和4年】
- 農林水産省のアニマルウェルフェアに関する意見交換会の当協会会員社の委員推薦
- 農林水産省の飼養管理指針案(採卵鶏)について、協会のパブリックコメントの提出
【提出意見の概要】
- 農林水産省の新たな飼養管理指針策定後の積極的な施策の推進。
- 飼養管理指針下の効果の発揮には、消費者が見て判断できる指標・マークが重要。様々な規格基準の乱立回避や、正しい消費者認識の醸成の混乱回避の観点からも統一的で具体的な認定制度が必要であり、一定の総合的指標や目安が国又は第3者機関的な組織からの提供を要望。
- 指針遵守の畜産物がWOAHの国際基準に沿い、アニマルウェルフェア配慮の畜産物であることが、消費者や関係事業者、海外から理解を得られる説明や広報普及の取組の推進。
- 飼養管理指針に沿った畜産物の安定供給確保のための国の各般の支援策の推進。
- アニマルウェルフェア配慮の畜産物の生産、当該畜産物使用の食品製造、消費サイクルの円滑な機能発揮には、サプライチェーン全体で各ステークホルダー間の正しい知識や知見、現場の実情に基づく共通の理解・認識の醸成が重要。このための取組における関係行政機関の一層の役割発揮。
【令和5年】
- 採卵鶏の飼養管理指針案(農林水産省)の概要把握と意見交換
- 国内の畜産物の認証制度(採卵鶏関係)の概要把握と意見交換
- 学識経験者との採卵鶏のアニマルウェルフェアに関連するコスト等諸課題の把握と意見交換
- 国内の動物福祉団体との意見交換
【令和6年】
- 国内の動物福祉団体との意見交換
- 鶏卵生産者団体のアニマルウェルフェアの今後の取組に関する概要把握と意見交換
- 採卵鶏のアニマルウェルフェアに関する協会の考え方の整理
5.今後の協会の取組方針
当協会としては、上記の考え方や、これまでの取組を踏まえ、採卵鶏のアニマルウェルフェアの取組が一層推進されるよう、以下のような取組を行っていくこととしています。
①採卵鶏のアニマルウェルフェアは会員事業者が取り組んでいくべき社会的課題として、その5つの自由の基本原則の尊重と、この原則に配慮した家畜の飼養管理の推進が図られることが重要であることについての会員事業者の共通認識の醸成
②採卵鶏のアニマルウェルフェアに関する内外の知見や情報の収集・提供
③各ステークホルダーや行政、学識者、関連団体等の意見交換等の実施、その他